青春とは、汗と涙とパンケーキだ

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そして翌日、いよいよ千鶴先輩とお菓子作りをスタートする訳なのだが… 「ぅあ゛ぁああぁあ゛………俺の部屋に高嶋くんがいる……夢みたいだ…」 「……それだいぶ引きますけど大丈夫ですか?」 「エプロン姿とか俺の嫁感強い…」 千鶴先輩が胸を押さえて這いつくばっていて、俺はその姿を白い目で見ていた。部屋はモデルルームなのでは?と感じるくらいにすごく綺麗にしていて家具も全部お洒落なのに、そこに住んでいるのが地面を這いつくばるスライムだなんて誰が思うだろうか。 千鶴先輩は見た目は格好いいのに中身が残念すぎる。初めて会った時の印象とだいぶ変わってしまったが、こういう飾らない姿も魅力的ではある。イケメン効果か? 「もう、馬鹿なこと言ってないで早く作りましょう」 「うん」 俺がお菓子作りに取り掛かろうとするとスタッと立ち上がって、やっと人間に進化できたみたいだ。 「フルーツタルトだよね。バターはもう室温に戻してあるから、まずは小麦粉をふるっておこうか。」 千鶴先輩はお菓子作りの器材をたくさん用意してくれていて、段取りがいいところを見る限り本当にお菓子作りが得意みたいだ。 フルーツタルトにしたのは奏太に渡すから甘ったるくないケーキがいいと思ったからだ。運動した後のビタミン補給は大事だし、一石二鳥だ。 「それにしても高嶋くんはさ、その友達が決勝戦で勝てるって信じてるんだね」 「え?あぁ……確かに。」 小麦粉をふるっている俺は千鶴先輩の言葉に気付かされる。奏太が負けるっていう未来もあるはずなのにそんなこと考えもせず、ご褒美のケーキを今作っている。 それもこれも、夏休み中も毎日部活で頑張っている奏太を見ているからだと思う。練習姿はたまにしか見ないけれど、部活から寮に帰ってきたときは髪も汗で濡れていてその頑張りが窺えるのだ。そんな奏太が負けるわけないと心のどこかで思っていたのだろう。
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