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思っていた反応と全然違う。
青ざめて、泣きじゃくって、見たこともない表情で拒絶されて、罵倒される予想もしていた。俺が今したことはそういうことだ。相手が例え女の子だったとしても、許されるべき行為ではない。
それがどうだろう。目の前にいるなつは顔を真っ赤にしながら長い睫毛を伏せ、まともに俺の顔を見られないでいる。嫌なら拒否すれば良いのに、その手は抵抗することを諦めたかのように力が抜けていた。俺がなつを好きだから、そうであって欲しいから、淡い期待を抱いてしまっているのかもしれない。
どちらにせよ、なつを困らせてしまっているのは事実だ。無理やり襲ってしまったという現実も変えることはできない。
「無理やりしてごめん。試合に負けて辛いとかじゃなくて、なつのことを好きな気持ちがもう抑えられなかった。」
それに対してなつが口を開くことはなく、沈黙の時間がしばらく続いた。
「お願いだから、嫌いにならないでくれ」
なつの肩に頭を預けて、か細い声で呟いた。
卑怯だってわかってる。きっと優しいなつはこんなこと言われたら俺のことを避けたりできなくなる。俺の気持ちに応えてくれなくても、なつのそばに居させてほしい。
「ごめん……」
その言葉に、息が止まった。この世の終わりが来たのかと、俺の中で何かが崩れ落ちる音がした。分かっていた筈なのにザワザワと胸の内が騒ついて、握っている手に無意識のうちに力が入る。
「俺、ちょっと混乱してて。恋愛経験とかないからこういう時なんて言ったら良いのかも、自分の頭の中整理するのも難しくて…」
その曇りのない言葉に得体の知れないドロドロな感情が浄化されていくような感覚がした。
「だから…俺に考える時間をくれませんか」
「……うん。」
なつの一挙一動に幸にも不幸にもなり得て、自分がわからなくなってくる。いっそ盛大に振って拒否してくれていたら、こんなに依存しなくて済んだかもしれないのに。
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