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「そういえば俺のこと寮長、寮長言うけど、そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃない?」
やっと女性たちからの視線が気にならなくなってきたとき、寮長は薄い唇を開いてそう言った。
「え?寮長は寮長ですよ」
「………。」
俺が答えると寮長は唇を尖らせて、持っているフォークとナイフを置いた。そしてジトーっと何かを訴えかけるように俺を見てくる。
「か、加賀見先輩?」
「………。」
「結弦先輩?」
「………。」
「こ、これ以上は無理ですよ!」
名前の呼び方を変えるたび眉毛だけピクッと動かすが、それ以外の表情は変わらずでジト目のまま俺を見据えている。これだけ俺が譲歩しているというのに、寮長は意外と強情だ。
「結弦」
「……ゆづ、結弦…くん。」
「あと敬語とかなしがいいなぁ」
「な、何でですか!先輩には無理ですって」
「だって俺、高嶋くんと仲良くなりたいんだもん。」
「そう言われたら悪い気はしませんけど…」
ウルウルとした瞳に見つめられてしまえば、俺が観念してしまう未来が予想できた。俺だって偽不良でいた時にいつも優しく迎えてくれた寮長と仲良くなれるなら仲良くなりたいけど、これはちょっと難易度が上がりすぎなのではないだろうか。
「………わかりました。出来るだけ頑張ります。」
「やったー!俺も夏輝って呼んでもいい?」
「いいです………じゃなくて、いいよ。」
半ば呆れながら答えると寮長…いや、結弦くんは満面の笑みを見せた。そんな笑顔を見せられたら何も言えなくなってしまう。
寮長ももしかしたら、セフレとかそういう体の関係じゃなくて心を許せる相手が欲しかったのだろうか。
「なーつきくん!」
「はしゃぎ過ぎですって」
「はい、敬語!敬語が10回たまると俺の言うこと聞かないといけません。」
「ええっ、それフェアじゃないですよ!…あっ」
「はい、2回目だよ〜」
そんなこんなでパンケーキを食べている間は女の子たちの妙な視線を感じながらも、2人で楽しい時間を過ごすことができたのだった。
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