青春とは、汗と涙とパンケーキだ

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「あの……結弦くんは、男の人に抵抗なかった…?」 「あったよ。むしろ俺は無理やり犯された身だからね、恐怖症になってもおかしくなかったと思う。」 失礼を承知の上で俺が話を切り出すと、辛い思い出のはずなのに結弦くんはこともなげに話してくれた。 「でも俺は行為の気持ちよさとか、背徳感とか…そっちの方にいっちゃってね。多分脳みそが馬鹿になってたんだと思う。」 自嘲するように笑ったかと思えば、結弦くんは首を傾げ妖艶な笑みを俺に向けてきた。 「だから、堕ちてしまったら一瞬だよ」 言葉一つ一つに嘘があるようには聞こえないけど、なぜか違和感を覚えた。 「教えてあげようか?」 「ゆづる、く……」 頰を優しく包まれ、結弦くんの方へ自然と顔を向かされると、俺の唇を求めるように結弦くんの顔が近づいてくる。距離が縮まるにつれ結弦くんの唇はゆっくり開いていって、油断すれば一気にかぶりつかれそうだ。 ─ バッ 「……っ!?!?」 俺が結弦くんの手首を引っ張って、その華奢な体を抱き締めると、結弦くんは何が起きたかわからないような小さな悲鳴をあげた。 「俺、前に言いましたよね?もっと自分を大切にしてくださいって。」 結弦くん、″ 突き離して ″って言ってる顔をしていた。そうやって悪い人を演じて、いつから他人のために自分を傷つけていたんだろう。自分を守るための言葉でさえ結弦くん自身を卑下するものばかりで、この人は悪口や自分を馬鹿にすることに慣れすぎている。 結弦くんが俺に何を伝えたいのか、その意図までは読めなかったけれど、瞳の奥がとても寂しそうだった。 「は、ハハ…参ったな。」 「お願いだから、そんな風に結弦くんを悪く言ったりするのはやめてほしい。」 置かれている状況は違えど、自分を追い込んでしまう気持ちはとてもよくわかるから。今は大丈夫でもいつかポキッと心が折れてしまいそうで、壊れないように優しく抱きしめた。
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