青春とは、汗と涙とパンケーキだ

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加賀見 結弦side 俺は今、好きな人に抱き締められている。 とてもおかしな感覚だった。好きな人に抱きしめられた経験はあるし、むしろそれ以上のこともしている。両想いではなかったけれど、それで満足していたのに。 触れている指先が壊れ物を扱うかのように優しくて、かけられた言葉が温かくて、なぜか無性に泣きたくなるこの感じはなんだろう。 「結弦くんは優しいけど、自分に全然優しくない。」 「夏輝の方が優しいと思うけど…」 「俺のことが優しいと思うなら、それはきっと結弦くんが優しくしてくれたからだよ。」 また、だ。 こんな風に思いやりがある言葉をかけられることに慣れていないから、どうしていいか分からなくなる。 「そっ……か……」 「うん」 ただ夏輝には拒否する勇気をあげたかっただけなのに。俺はそれができなくて拗らせてしまったから、親友でもなんでも自分の気持ちに素直になって伝えなければいけない。男同士ならば尚更だ。 欲を言うと自分の気持ちも夏輝の気持ちも確かめたかった。拒否されると確信して誘ったけれど、分かったことといえば俺には望みがないことと俺がもっと夏輝を好きになってしまったことくらいだ。 「ありがとう」 好きと言う気持ちが溢れ出さないようにゆっくり離れると、夏輝は優しく笑いかけてくれた。 その笑顔が。その優しさが。好きで好きで堪らない。けれどこの気持ちは君を困らせてしまうだけだから。 「なんかごめんね、夏輝の相談乗ってたのに」 「ううん。結弦くんも何か意図があってあんなこと言ったんでしょ?」 「そこまでお見通しか。」 勘が鋭いのか、鈍感なのか。 夏輝は多分、人の痛みとか優しさに敏感で、それを大切にできる人なんだと思う。だからこそ惹かれてしまった。
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