5514人が本棚に入れています
本棚に追加
「さぁ、お前ら。楽しかった夏休みも終わっていよいよ2学期だ。もちろん楽しいこともあるが、お前らも来年には受験生だ。気ィ引き締めてけ。」
朝のホームルーム、矢野は教壇に立って生徒たちを脅すような口調でそう言った。矢野は眉間に皺を寄せ、切れ長な目で睨むような視線を生徒に送っていて、とても教師とは思えない。
1番前の席だからか一瞬だけ矢野と目が合ったが、すぐに視線を逸らされてしまった。いつもだったら俺を揶揄うように目を細めて笑みを見せたり、何かしらアクションを起こしてくるのだが、まぁクラスメイトもいるからと特に気にも留めなかった。
「で、2学期と言えば文化祭が始まるわけだが……何かいい案はあるか?」
矢野の文化祭という言葉にバッと一斉に手が挙がり、後ろからの禍々しいオーラと圧に早くも尻込みしてしまう。
2度目の経験になるが、この学園の文化祭への熱量は本当に半端じゃない。しかも自分が何をしたいとかじゃなく、憧れのあの子にこんな服を着せたいとか、あんな事させたいとか不純な動機で意見を言う奴もいるからたちが悪い。
「はい、宮田」
「クレープ屋さん!」
意外とまともな事を言う奴もいるじゃないかと感心しながら、飲食店であれば自分にも色々できることがあるかもしれないと期待に胸膨らませる。
「超本気のお化け屋敷!」
「劇!白雪姫とか…キスシーンあるし!」
「メイド喫茶が王道でしょ!」
「バニーボーイしか勝たん」
「女装喫茶以外ありえん」
男子校だと言うのに女子が居てナンボな意見がたくさん出たものだ。クレープ屋と答えた生徒が可愛く思えてくる。
接客経験もないし、人前に出ることが苦手な俺は何がなんでも裏方に回りたいところだが、親衛隊がいる人は表に立つことが多い。でももし女装喫茶になったとしたら、親衛隊隊長である朝陽(早乙女)が絶対反対してくれる気がする。うん、そうに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!