猫被りくんは甘え下手?

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「そういえば今日は来ないな」 「何が?」 「槙田」 「そういえば、いつもなら来る時間だよね。」 しばらく教室で槙田が来るのを待っていたが全然現れる気配はなくて、ここまでずっと倫太郎に質問責めをされていた。倫太郎の勘が鋭いのか、俺が表情に出やすいのかは知らないが、倫太郎は何か確信を得たようなニマニマな笑みを浮かべていた。あれはまずい。 「大好きな一ノ瀬とでもバッタリ会ったんじゃない?」 凪にそう言われて気付く。槙田は一緒に帰る約束をしている訳ではなく、いつも一ノ瀬に会いに来ているのだ。ただ毎度の如くタイミングが悪くて会えず終いで、たまたま近くにいる俺たちと一緒に帰っているだけだ。 「そっ、か……」 いつも腕に抱きついてくる奴が居ないだけでこんなにも平穏で、寂しくなるのか。物寂しく感じながらも、鞄を片手に3人で寮へ向かった。 「えっ!?保険医と矢野先生が腐れ縁!?」 「うん、前に言ってた。」 帰り道、倫太郎が教師同士の恋愛事情に花を咲かせている間、俺はずっと槙田の事を考えていた。矢野のことは…口が滑ったというか、俺の代わりに倫太郎の生贄になってもらった。 「どっちが攻めなんだろう。普通に考えたら美人受けなんだろうけど、あの2人がカッポゥだったら矢野先生受けが見てみたい。ああいう強面の顔がトロトロになる瞬間が堪らないっていうか、別に変な趣味はないからね!…おっとヨダレが」 「ごめん凪、倫太郎。ちょっと用事思い出した!先帰ってて」 「ん」 「腐ラグの匂いがするからついて行きたい…けど、お邪魔になるから我慢する。行ってらっしゃい!」 ほとんど上の空だった俺は倫太郎の話を遮って、校舎へと駆け出した。行先はもう決まっている。 「……倫太郎、なんか凄いこと言ってなかったか?」 はたと気づいて一回足を止めて考えるが、思い出してはいけないような気がして再び目的の場所へと駆け出した。
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