猫被りくんは甘え下手?

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余裕な態度で俺を見つめる槙田から目を逸らし、口元を隠しながら唇をギュッと噛む。頭が全然追いつかない。オーバーヒートして身も心も焼け焦げてしまいそうだ。 キスはキスでもあんなえっちなキスは初めてだった。いくら逃げても捕まえられてドロドロに溶かされて、気付いたら頭がくらくらになっていた。 しかも本当にほんのちょっとだけれど″気持ちいい″なんて思ってしまった。最終的には何も考えられなくなって槙田に身をまかせ主導権を握らせてしまったのは俺だ。 俺に告白させる宣言をした槙田の部屋にずっと留まっているのは危険だと俺の直感が告げている。一目散に立って逃げだそうとした時、衝撃的な事実が判明した。 「た、立てない……」 腰を上げようとしても、全然持ち上がらなくて立つことができなかったのだ。別に痛くはないが力が抜けてしまったかのように動かない。槙田は目を見開いて驚きの表情を見せたかと思いきや満足そうに頰を緩めて足を組み、俺を見下ろしてくる。 「ふふ、そんなに良かった?」 「よ、よくない!慣れてないだけだ!!」 誰かに助けを求めようとポケットからスマホを取り出して連絡先を開いた。 新さん……は、理由を聞かれたら逃れられないから駄目だ。奏太……いや、俺の心臓が保たなくなるし駄目だ。結弦くんも肩を貸してもらうのが申し訳ないくらい細いし、千鶴先輩は喜んできてくれそうだけど絶対顔真っ赤にしてそれどころじゃなくなる。朝陽は槙田に敵意を抱きそうだし、一ノ瀬に助けを求めるなんて論外だし、宗方は変な妄想しそうだから嫌だ。ってなると…… 俺は連絡先から頭に思い浮かんだ人の名前を急いで探して、電話をかけた。 「もしもしっ…助けてくれ!」 『どうした?』 「立てなくなった」 『は?なんで』 携帯ゲームでもしていたのか凪はすぐ電話に出てくれた。その声はいつもより低く、違和感を覚えたが、一早く脱出したい俺は話を続けた。 「腰が……そう!ギックリ腰ってやつ!!」 『今行くから…どこ?』 「槙田の部屋…」 そこまで言うと電話がブチっと切れて、また槙田と2人の空間になってしまった。
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