猫被りくんは甘え下手?

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星乃 凪side 『キスされて腰抜けまし、た……』 そう聞いた時、鈍器で殴られたみたいな強い衝撃を受けた。ある程度予想はしていたが、本人の口から聞くと攻撃力が段違いで、思わず夏輝を責めるような物言いをしてしまった。 腰が砕けるようなキスをされた割には怖がっている素振りも怒っている感じでもなく恥ずかしさの方が勝っている様子で、存外気持ち良かったのではないかと変に勘繰ってしまう。男同士のキスへの嫌悪感や心配とも違う感情が心の中で渦巻いていた。 槙田とのキスなんて忘れてしまえばいいのに、とその記憶を掻き消したい衝動に駆られた。今俺が同じことをすれば記憶に新しく残るキスの相手は自分なわけだ。夏輝がどんな反応を見せるのか、腰を抜かすほどキスが唆られるものなのか確かめたくなった。 恋愛とか他人に興味なかった自分の中にそんな感情が芽生えるだなんて想定外だった。というか、1人の人間にここまで肩入れするのが今までの自分だったらあり得ない話だ。 ── 探るようなキス。  それは一種の賭けみたいなもので。夏輝が抵抗するならすぐ止めるつもりだった。キスなんて唇をくっつけるだけ。ただそれだけの行為に意味なんてないと思っていた。けれどそんなものはすぐに覆されてしまった。 腕の中にいる夏輝は動揺こそしていたけれど、潤んだ瞳は物欲しげに俺を捕らえているように思えた。抵抗しようと思えばできるはずなのに、背中に回された手は俺の服をキュッと掴んで離さない。 目の前の夏輝を見て生唾を飲み込むと、喉仏がこくりと上下に動いた。枯渇していた何かが満たされていくような、不思議な感覚。もっとしたい、もっと体温を感じて、もっと求めさせて、その表情を乱したくなる。 (癖になりそうだ……) 「嫌じゃ、ない………って言ったら、嫌いになるか?」 不安げにゆらゆらと揺れる瞳に見つめられ、答える代わりにまた頬へキスを落とす。唇をキュッと結んで視線を彷徨わせる姿に自然と口角が上がった。
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