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夏輝は真剣な表情をしていて、そこまで拒否するならばと俺は脱力してそっぽを向いた。
「槙田にはされたくせに」
「それは槙田が…」
「でもそれは抵抗しなかったんだろ」
「しなかったっていうか、できなかったというか……」
夏輝の声は語尾につれてどんどん小さくなり、言い訳っぽく聞こえてしまう。腰が抜けるくらい気持ち良さに溺れていたということなんだろうか。どちらにせよ、唇を重ね合わせたという事実は変えることができない。
(キスするなら俺で良いじゃん…)
ガキみたいな考え方に自分でも笑えてくる。あれほど他人に無関心だった俺が、誰か1人に執着するなるなんて。
夏輝は凪がいなくなったら死ぬ、とか言ってたけど、今の俺みたいに独占欲の塊のような感情を向けているようには思えない。当の俺は本当に俺なしじゃ生きられなくなってしまえば、こんな思いしなくて済むんじゃないかと考えるくらいには依存しているみたいだ。
「……あ〜、もう!」
夏輝はなにを思ったのか、ギュッと目を瞑り顔を近づけてきた。その様子をぼんやり見つめていると、夏輝は俺の唇の横にちゅっと柔らかい感触を残して離れていく。
俺はほんのり濡れた口の端に触れて、四つん這いになっている夏輝を見上げた。
「これでいいだろ。」
夏輝はチラッとこっちを見て、恥ずかしさからモニョモニョと口を動かし睫毛を伏せた。今まで感じたことのない昂る感情が心臓のあたりからブワッと溢れ出し、顔が熱を帯びていく。
「なにそれ」
「わっ…」
俺の上から退こうとしている夏輝の手首を引っ張ると体勢を崩して俺の胸に倒れ込んでくる。
「かわいい」
「可愛くはないだろ!」
「もっとして」
「もうしない!一回で我慢しろ」
首に回した手で体を引き寄せると、夏輝は離れようとグググッと必死に抵抗してみせる。そんな様子に思わず頬が緩んで、堪えきれず笑い声を漏らすと夏輝が物珍しそうに俺の顔を覗き込んできた。
(また警戒心解けてるし…)
これが友情の好きか、それとも恋愛感情なのかとか、そんなことはどうでもいい。ただ俺が夏輝を必要としていて、夏輝の隣に自分がいれば幸せだと思うだけ。夏輝が幸せそうに笑ってればいい。
───ただ、それだけ。
星乃 凪side end…
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