ヤクザ教師は隠したい

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「いっった!!」 近くから大声が上がり視線を向ければ、作業をしていた花澤くんが指をギュッと握って悶えている。前にもこんな光景をみたようなデジャヴを感じながらも、声を掛けてみることにした。 「花澤くん、大丈夫?」 「あ、高嶋……」 「…俺が手当てしない方がいい?」 「いっ、いや!やって下さい!むしろご褒美です!お願いします!」 花澤くんは顔を赤らめながら、血が滲む指を差し出してきた。俺は苦笑いで答えながら救急セットを懐から取り出した。 花澤くんは俺の隣の席のクラスメイトで、前までかなり怯えられていたが、今では教科書を忘れたら一緒に見る仲だ。もちろん他のクラスメイトとも次第に打ち解けてきていて、挨拶をすれば返してくれるし、毎日美味しいお菓子をくれたりする。着替えをするときはSPのように俺を取り囲んで壁を作り、周囲を警戒していたりとユーモアに溢れる人達だ。それを今までお互いに怖がっていたなんて本当に勿体ないことをした。 「これはこうやった方がいいよ」 「すげー!高嶋って器用だな」 今は文化祭の準備の時間で、ホストクラブの店を出す俺たちのクラスは内装を煌びやかにするための作業を行っていた。どうやら花澤くんはハサミを使う際に手を切ったらしく、コツを教えると爽やかな笑みを見せて、また真剣に取り組み始めた。 「あ、そうだ」 ピンッと思い立って教卓の方に歩いていくと矢野が顎に手を当て、倫太郎と何やら話していた。2人が話し終わるのを待っていようと、やりとりを眺めていたら矢野が俺の視線に気づいた。 「──だな。……宗方、待ってるぞ」 「ん、どうしたの?」 矢野が俺に親指を向けると、倫太郎の視線は俺に向けられる。倫太郎と俺が向き合うと矢野は何事もなかったかのようにその場を離れ、また別の生徒に話しかけられていた。 「夏輝くん?何か用があった?」 「……へ?…あぁ、…………なんだっけ。」 話の腰を折ってまで何かを聞こうと思っていたのに当初の目的を忘れてしまい、倫太郎に謝ってまた持ち場へと戻った。 再び矢野に視線を向けると、くだらない話を聞いて眉間に皺を寄せ笑っていた。
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