5516人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、本題いいかな」
「あっ……そうでした。」
意外にも話が盛り上がってしまい、生徒会室にわざわざ呼ばれた理由も忘れていた。ソファにきちんと座り直して会長を見ると、「そんな固くならないで、リラックスして聞いて」と緊張を和らげてくれた。
内容は先程言っていたように文化祭で行う生徒会主催のイベントについての話だった。俺が選ばれた理由として、親衛隊がいることはマストらしく、それに加え学園で今一番話題性のある生徒だかららしい。その方が生徒たちも盛り上がるとかなんとか。
「俺には荷が重いっていうか……」
「そうだよね。実はイベントでは君に有利になるように色々用意してるんだ。手伝ってくれたらそれ相応のご褒美も用意してる。」
俺自身、この学園のイベントにはあまり良い思い出がないから渋っていた。しかし会長の言葉の誘惑に踊らされ、結局はイベントに参加することをいつの間にか承諾していた。
話を聞く限りでは悪い話ではなかったので、青春を思い切り楽しむと思って頑張ろうと思う。他に参加者もいるらしいから、そっちに意識が向くように願っておこう。
「イベントの時間とかは担任に伝えておいてね。生徒会主催のって言ったらスケジュール空けてくれると思うから。」
会長から書類を1枚受けとり、ふと気になっていたことを聞いてみることにした。
「それにしても、何で会長がわざわざ話しに来たんですか?俺に話すなら同じクラスの一ノ瀬でも…」
─ ガンッッ
「っ………!?」
会長の拳が机に振り下ろされ、紅茶が入ったカップが揺れる。急な態度の変化に驚いてビクッと体を震わせ、恐る恐る会長を見ると俯いていて表情を窺うことはできなかった。
しばらくして会長が顔を上げ、目が合うと今の出来事を無かったことにするようにニコリと笑みを張り付けた。
「ごめんね。一ノ瀬は別の用事があって、いつでも君に構える訳じゃないんだ。」
その言葉には棘があるように思えて、俺は小さく頷くことしか出来なかった。
俺は何か触れてはいけないことに触れてしまったんだろうか。少し縮まったと思っていた心の距離は想像以上に遠かったことを知った。
最初のコメントを投稿しよう!