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廊下の角を曲がり、生徒会室が見えなくなったところで俺はホッとして溜息を一つ漏らした。隣でそれを見ていた新さんが指の裏で俺の前髪を分けるようにスッと上げ、顔を覗き込んできた。俺は思わず足を止めて新さんの顔を見上げる。
「あんな密室で何してた?鍵まで掛けて」
「鍵はいつも掛けてると思って不思議に思いませんでした。でも話してたのは本当に文化祭の話で……」
新さんが手を離すと前髪がパサっと額に掛かって瞬きをする。新さんは何かに気づいたように前を向いていて、俺もつられるように顔を向けた。
「矢野……」
廊下の少し先には面食らった表情をした矢野が立っていて、俺と目が合うと視線を逸らすように踵を返して行ってしまった。
「あれは……夏輝の担任か」
「まぁ…はい。」
今の矢野の行動で確信を得た俺は新さんに曖昧な返事をする。矢野の背中を遠くで見つめながら胸の奥でモヤモヤとした感情が渦巻く。最近感じていた違和感が確信に変わった瞬間だった。
「何かあったのか?」
「いや……」
「お前は隠し事が下手だな。」
表には出さないが信頼している教師に避けられていると知って、新さんの質問を上手く躱すことができなかった。
「久しぶりに2人で話さないか?」
「あれ?でも仕事…」
「たまの息抜きくらい良いだろう?」
「それサボるってことですか?」
「ダメか?」
「俺が新さんの頼みは断れないの知ってるじゃないですか。」
「そうか、そうだな。」
そう言って歩き出す新さんはなぜか満足げに笑っていて、俺は何故かホッとする。くつくつと笑う背中を追って隣を歩き、綺麗な横顔を見上げながら口を開く。
「変な新さん」
そう呟くと目が合い、お互いに顔を緩ませた。
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