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新さんは一頻り笑った後、俺と同じように柵に背を預けた。
「お前にそれを言われるとはな。」
「な…っ、俺だってしますよ。恋愛の一つや二つくらい」
新さんの発言は俺が恋愛経験がない鈍感だと言っているように聞こえて、恥ずかしくなって反論した。
「ほう、それは興味深い。恋愛相談にでも乗ってもらおうか。」
「え゛っ……それ、は…」
どんなに自分を取り繕っても新さんの方が何枚も上手で、言葉を濁らせてしまう。焦る俺の反応を楽しむように新さんの笑みは深まった。
「好きな人はいるか?」
「いません!」
「手を繋いだことは?」
「ん、ん〜…小さい頃にだったら」
「なら、キスしたことは?」
これって恋愛相談じゃなくてただの質問コーナーじゃ?と思っていると最後の質問にドキッとした。ここ最近男にファーストキスを奪われ、それから3人とのキスをしてしまっている。その事実を新さんに言うのはかなり気が引ける。でも、新さんの視線は俺の思考を全部見透かしているようで嘘はつけない。
「キスは……まぁ、ありますよ。」
「誰と?」
ゴニョゴニョと話しながら俯いていれば、新さんの声のトーンが少し下がった気がして顔を見上げる。そこには真剣な表情の新さんがいて、俺の思考は完全に固まった。
「誰とって…それは……えっと、」
「俺には言えない相手なのか?」
「………な、何でそんなこと聞くんですか?」
新さんの質問攻めに言葉が詰まって、ペットボトルを両手でギュッと握る。
新さんが男同士の恋愛に偏見を持っているとは限らないが、好きでもない相手とキスをするような軟派な奴と思われてしまいそうで言いたくない。新さんに見捨てられてしまうのが1番怖い。
「お前のことは何でも知りたくなる」
俺は新さんを見て、目を見開いた。
新さんは眉を下げ力なく笑っていて、俺は言葉を失ってしまった。今まで格好いいところしか見たことがない俺にとって、初めて見る新さんの弱い一面な気がした。
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