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「そんなの俺だって、新さんのこともっと知りたいですよ」
「お前の″知りたい″と俺の″知りたい″じゃ種類が違う」
急に大人っぽいことを言うから、その違いがわからない俺は口を出せなくて、唇を尖らせた。
いつもそうだ。
隣に並んで同じ景色を見たいと思うのに、いつまで経ってもその大きな背中には追いつけなくて。それよりか日を追うごとにさらに遠くなっているような気さえする。
「一緒なら良いのに。」
「……そうだな。俺もそう思う。」
お互いにそれ以上踏み込むことができなくて、静かな時間が流れる。サァッと風が吹いて、木々が揺れる音がやけに大きく聞こえた。
「……それで、誰なんだ?」
「もう!絶対言わないですよ!!」
「今なら口を滑らせると思ったんだがな。」
沈黙を破るように話しかけてきた新さんは口の端を上げて悪い顔をしていて、俺は半分笑いながら答えた。
いつもの調子を取り戻した俺と新さんは夏休みの話に花を咲かせた。天音くんと仲直りした話をすると、自分のことのように喜んでくれて嬉しかった。新さんは家族で海外旅行に行った話や剣道部の話をしてくれた。
「……喉が渇いた。一口貰っても良いか?」
「もちろんです。」
飲みかけのサイダーを新さんに手渡すと、キャップを開け口をつける。喉仏がコクリと上下に動く仕草が色っぽく見えて、俺は慌てて顔を逸らした。
歩く18禁と言われるのも無理ない。こんな短時間でそう思うのだから教室で一緒に過ごしている人はどうなってしまうのだろう。
「すまないな」
「新さんが買ってくれたんだからそんなの良いですよ」
返されたペットボトルを見るとまだ半分ほどサイダーが残っていて、キャップを開け体に流し込む。
「間接キス、だな」
「ん゛っっ………けほっ」
聞き慣れない言葉に隣を見ると、新さんはイタズラっぽい顔で微笑んでいた。新さんが変なことを言うから、俺は気管支にサイダーが入って咽せてしまう。新さんが背中を撫でてくれるけど、俺はそれどころじゃなくて顔が熱くなっていく。
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