ヤクザ教師は隠したい

15/30
前へ
/565ページ
次へ
2階から探してみたが矢野の姿はおろか人一人見当たらなかった。1階を見渡しながら階段を降り、散策するような気持ちで奥へと進んで行く。 こんな広い場所を管理している司書さんは大変だろうなとしみじみ思っていると、いつの間にか図書室の端まで来ていた。 「こんな場所あったっけ?」 目の前には海外アンティークを感じさせる木彫の扉があった。俺の好奇心を掻き立てるかのように扉は少し開いていて、俺はそっとドアノブに引いてみる。 扉を開けるとふわっと古い本の匂いがして、なんとなく懐かしい気持ちになった。部屋の中は思っていたよりも狭く、寮の個人部屋くらいだ。 「や………」 足を一歩踏み入れ、ある人物を目に捕らえた瞬間、名前を呼ぼうとして口を両手で押さえた。というのもその人物が片腕を枕にして机で寝ていたからである。 音を立てないように扉を閉めて忍び込んだ俺は矢野が眠っている机にそっと近づく。どうやら何か調べ物をしていたようで、分厚い辞書と俺には到底理解できないであろう難しい本が何冊も積まれていた。きっと寝落ちでもしてしまったんだろう。 「怒ってるみたい」 矢野の寝顔を覗き込むと眉間に皺が寄っていて、社畜サラリーマンのような疲れが顔に滲み出ている。 さっきまで色々と問いただしてやろうと思っていたのに、こんな姿を見たら怒りもどこかへ行ってしまった。けれど理由を聞かないのもモヤモヤするから、起きるまで待つことにした。 「ん〜、この匂い好きかも」 壁一面本だらけの部屋を見渡すと隅に丸椅子が置いてあり、俺はそれを持って矢野の隣に座った。矢野が起きる気配は全くなくて、暇になった俺は矢野と同じように机に頭を預けた。 「何で逃げるんだよばーか」 矢野の顔をジィッと見つめながら囁くように呟いた俺は、ゆっくりと瞳を閉じた。
/565ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5517人が本棚に入れています
本棚に追加