ヤクザ教師は隠したい

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好きになったキッカケとかは特にない。気付いたら好きになっていた。その一言に尽きるだろう。この年齢で恋愛経験が浅いわけでもなければ自分の気持ちに疎いわけでもない。気付くまでにそう時間は掛からなかった。 今までは見た目はともかく、頭が良くて友達想いな優等生のような印象で、生意気だけどからかい甲斐のあるただの可愛い生徒だった。 けれど、不良だと虚勢を張っていたり、友達のために体を張れる強さを持ちながら裏で泣いているところとか。教師だからこそ垣間見えた弱い一面に惹かれてしまった。いつしかそんな姿を愛おしく、守りたいと思うようになった。 この感情はまずいと感じて、この夏は普段は行かない集まりに参加してみたり、色々試した。でも試す度に頭の中で高嶋の顔がチラついて、気付いたら夏休みが終わり、2学期が始まった。会える喜びを押し殺して、俺が必死に絞り出した策は高嶋を視界に入れないこと。なんて幼稚な考えとも思うが、そう徹底する他なかった。 「やの……」 「ん、起きたか」 重たそうな瞼を押し上げながら舌足らずな話し方で俺を見上げる高嶋。男相手に警戒心があるほうがおかしいが、無防備な姿に息を飲む。自分が理性のある大人で本当に良かった。 「やっと捕まえた。」 「は?」 俺の左手首を両手で掴むと、俺が逃げられないようにグッと力を入れた。俺のことをジッと睨んだかと思えば、次第に怪訝そうな表情に変わってくる。 「逃げねぇの?」 「…何で逃げるんだよ」 ドキッとした。 まさかバレているなんて思わなかった。今までの対応からすればもちろん天と地ほどの差があるかもしれないが、態度に出さないようにしていたのに。 「矢野さ、俺のこと避けてる…よな」 「………」 「俺、なんかしたっけ?」 眉毛を下げて小さく笑うその表情にチクリと胸が痛んだ。俺が高嶋を避けたところで、高嶋は気にしないと思っていた。教師なんて生徒から見ればそれくらいちっぽけな存在だ。 「嫌いになった?」 その言葉を聞いて条件反射でガタンッと音を立てて立ち上がってしまった。高嶋は驚いて俺を見上げ、緩んだ手にまた力を入れた。
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