ヤクザ教師は隠したい

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「生徒を嫌いになる訳ないだろ……きっとタイミングが悪かっただけだ」 本当は思い切り否定してその不安な気持ちを拭い去ってやりたい。でもそんな態度を見られたら自分の気持ちまでバレてしまう気がして、喉まで出かかった自分の想いを飲み込んだ。ストンと椅子に座り、俯いて下唇を噛む。 「そっか。」 これでいい。そう思いながら前髪の隙間から高嶋を見ると、まだわだかまりがとけていないのか納得がいかない表情をしていた。それからしばらく訪れた沈黙は俺にとって心地の良いものではなかったが、何やら考え込んでいる高嶋を眺めているのは悪くなかった。 「あの、笑わないで聞いて欲しいんだけど…」 「笑わねぇから言ってみろ」 「……俺、中学の時の担任は頼るに頼れなくてさ。だから教師に期待なんかこれっぽちもしてなかったんだ。」 高嶋は自分の緊張を解すように俺の手首をにぎにぎと握りながら語り出した。きっとこの過去は高嶋が不良を演じていたことに関連するのだろうとなんとなく思った。 「でも矢野はなんか違う。自分の立場とかそういうの関係なく俺たち目線で考えてくれる。」 そんなことはない。高嶋の言うように教師の鑑のような奴だったら、こんな状況にはなっていないだろう。 「だからさ、矢野のこと結構気に入ってるっていうか………だから避けられるとちょっと寂しい、かも。」 言葉にするのが恥ずかしいのか声が段々小さくなっていく。それがなんだかくすぐったくて、緩みそうな表情を奥歯で噛み締め耐えた。 「俺はそんな出来た大人じゃねぇよ」 「出来た大人じゃなくていい。俺は別に正解を求めてるわけじゃなくて……矢野みたいに一緒に考えてくれる先生もいるんだって嬉しかったんだ。」 高嶋は俺を真っ直ぐ見つめ、そう言った。 教師としてはこの上無いほど嬉しい言葉なんだろうが、高嶋に言われるのはなんかこう…現実を突きつけられた感じがして結構くるものがあった。わかっていたつもりでも、どこか期待していたんだろう。
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