ヤクザ教師は隠したい

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「そうか。そりゃあ教師冥利に尽きるな。」 「もう絶対言わないけどな。」 「そんなことだろうとこっちは録音してあんだよ。」 「ぜ〜ったい嘘だ。」 高嶋に掴まれているのと反対の手でわしゃわしゃと頭を撫でてやると、やっと高嶋の表情が緩み、つられて笑みが溢れた。 高嶋は教師である俺を必要としている。それだけで十分じゃないか。好きだという想いを掻き消し、教師として見守っていこうと気持ちを上書きするため瞳を閉じた。 「あ……雨だ。」 ザアァと降り始めた強い雨に高嶋は声を漏らした。遠くで雷が落ちる音がする度、俺の手首を掴んでいる手に力がこもる。 きっと、今の距離感が一番心地良い。想い伝えたところで100%報われることなんてないのだから。 「わっっ!!?」 高嶋の大きな声に驚いて目を開けると、電気が消えていて辺りは暗闇に包まれていた。上にある小さな窓から見えるのはどんよりとした雨空だけで、月の光も街灯の灯りも入ってこない。 ギギッと椅子が床に擦れる音がして高嶋に視線を戻した。すると腕が伸びてきて、何も反応できないままその温もりに包まれ、心臓が止まりそうになる。 俺の足の間に片膝をつき、肩に顔を埋め、背中に回された手はしっかりと服を掴んでいる。頭が真っ白になってこの状況に理解が追いつかない。 「てっ…停電?」 「……………。」 不良っぽい見た目をしているから、そうは見えないが本来は臆病な性格なのだろう。近くで聞こえる高嶋の息遣いは少し震えているような気がした。 「矢野……?」 暗闇に目が慣れてきて、至近距離にいる高嶋の顔がはっきりとわかる。大きな瞳が俺の顔を不安気に覗き込んできて、思わず顔を背けた。 「……あー、停電じゃねぇと思う。20時になると電気消えるから。」 柄にもなく顔が熱くなり、部屋が暗くて良かったと胸を撫で下ろした。
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