ヤクザ教師は隠したい

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「ビックリした…。それならスイッチ押せばまた電気つくかな?」 安心していつもの調子に戻った高嶋は俺に預けていた体を起こそうとする。 「……え?」 「あ……」 支えていた体の重みと服越しに伝わる温もりが離れていくのが名残惜しくて、思わず腰を引き寄せた。絶対困らせるとわかっていたのに、頭で考える流より先に体が動いてしまった。 「……もしかして雷が怖いとか?」 「あー、うん。まぁ……」 濁すように返事をすると、警戒して強張っていた高嶋の体からホッと力が抜けた感覚がした。 親に聞いた話だと小さい頃は花火だと勘違いして目を輝かせていたほど雷に恐怖心は皆無だが、言い訳には丁度いい。高嶋は俺に少しだけ体重を預け、背中をぽんぽんと撫でた。 「矢野みたいなおじさんにも怖いものあるんだな。」 「まだピチピチの28だ。」 「ピチピチは余計でしょ。」 クスクス笑って茶化してくる割に背中を撫でる手は優しくて、まるで赤子にでもなった変な気分だ。 「まぁでも、矢野はモテそう。」 「あ?何だよ急に…」 何かを考えるように手が止まったかと思えば、全く違う話題に変わった。高校生の思考回路はよく理解できない。 「見た目怖いけど、周りのことよく見えてるし、好きになったら一途そうだし。」 「褒めてもらってなんだが、俺はモテねぇよ。そもそも、好きな奴以外にモテても嬉しくないだろ。」 「ほら、そういうところ。女の子なら嬉しいと思うけど。」 (うぶ)そうな高嶋からそんな言葉が出てきたのは驚きだ。というか俺を褒めるだなんてどういう風の吹き回しだろうか。 「そう言うお前はモテなさそうだな。」 「は?」 「なんだ?図星か?」 揶揄うように問うと、あからさまに声を低くして俺から離れていこうとする。 「……そういうこと言うならもう一緒にいてあげない。」 「まぁ、いい。雷が怖いなんて嘘だからな。」 「は!?背中までポンポンしてあげたのに!」 俺を叩こうとして振り上げた腕の手首を掴んで顔を見上げると、ムスッとした可愛くなくて可愛い表情が瞳に映って、笑みが込み上げた。 「ばーか」 好きが溢れないように避けたり、想いを伝えようなんて馬鹿な真似もしない。ただ、泣いてる姿や悲しむ顔は見たくないから、お前の1番になれなくても頼りになる存在であり続けられるように。 (……そうは言っても、そんなすぐ気持ち切り替えられねぇよな。) だから、この時間がもう少しだけ続けばいい。 矢野 千尋side end…
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