ヤクザ教師は隠したい

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雷が怖いというトラウマが嘘だとわかった俺は顔を顰め、矢野の緩い拘束から抜け出した。電気のスイッチをカチカチ押して振り返ると、ムカつく笑みで矢野がこちらを見ていた。しかもふんぞり返って椅子に座っていたから腹が立って軽く肩をパンチしておいた。 また揶揄われてしまった。俺も学習すればいいのにこれで何度目だろう。というか、わざわざこんな男子高校生を抱きしめて何が楽しいんだか。 「ほら。もう帰ろう」 「雨降ってるのにか?」 矢野の腕を引っ張って立たせようとすると、窓の外を見てげんなりした顔をする。雷もまだ遠くの方で鳴っているようで、ゴロゴロと音が聞こえてくる。 そんなに帰るのを嫌がるなんて、やっぱり雷が怖いんじゃないんだろうか。生徒に弱みを握られるのが嫌で、トラウマが嘘っていう嘘をついたとしたら…? 「ふーーーん?」 「何だその調子乗った顔は。」 「別にぃ?雷は怖くないんですよね〜」 ニヤニヤする俺を怪訝そうな顔で見てきて、呆れた顔で近づいてくる。 「高嶋、」 「ん゛っ」 片手で両頬を掴まれて、タコみたいな顔になってしまう。驚く間もなくグイッと顔を近づけられ、鼻がくっつくまであと数センチ。 「生意気な口は塞ぐぞ」 腰にくるような低い声で囁く矢野は普段とは全然違う雰囲気で、思うように言葉が出てこなくなってしまう。別に怒っているような雰囲気でもないのにどうして肉食動物に狙われているような気分になるのだろう。 「………ぁ、」 ─ ガチャッ ドアの開く音が聞こえて反射的に視線を向けると、そこには驚きつつも面白いものを見つけたと言いたげな表情の東先生がいた。 「あらぁ…お邪魔だったわね。続きどうぞ。」 「ちがっ…!」 その言葉の意味を理解した瞬間、己が置かれている現状を思い出し、慌てて矢野から距離を取った。 「……瑛士か。何しにきたんだよ」 「アンタがどこに居るか聞かれたから探しにきたのよ。相変わらず失礼なやつねぇ、もう。」 2人がそんなやり取りをしている横で俺はバクバクなる心臓を抑えるように胸あたりの服をギュウッと掴んだ。
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