ヤクザ教師は隠したい

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キス、されるのかと思ってしまった。 男同士、しかも教師である矢野が俺をそんな目で見ることなんてないってわかりきってるのに。どうして俺は煩悩まみれの思考回路になっているのだろう。2人きりの密室で、しかもあんなに距離が近くにいた俺たちを見て東先生の目にどんな風に映っただろうか。 「……くん……高嶋くん?」 「はっ!!」 東先生の声で現実に戻ってきた俺は慌てて自分の鞄を探す。もう何でもいいからこの場から去りたかった。 「おっ、俺帰ります!」 俺は机に置かれていた鞄を奪うように取って部屋を飛び出した。人気のない廊下を走り抜けながら、思い出すのは矢野の表情と体温。 (……変な矢野!変な矢野!!いや、俺がおかしいのか?) 昇降口から外へ出ようとすると外は土砂降りの雨で、さっきまで雷が鳴っていたことを今更思い出す。雨音も気にならないくらい考え事をしていたのか、と灰色の空を見上げた。 「「はぁ……」」 溜め息が誰かのものと重なって、声がした方を見ると、よく見慣れた人物と視線が合う。 「一ノ瀬……なんで…」 「それはこっちの台詞。部活もやってない夏輝がなんでこんな時間まで学校にいるの?」 そこにいたのは一ノ瀬で、俺がこんな時間に学校にいることに驚きもせず知っていたような口調でそう言った。 「図書室で寝落ちしちゃって……」 「馬鹿なの?少しは警戒心持ちなよ」 「ウッ………そういう一ノ瀬は?」 「生徒会。」 生徒会といえば、教師の次に大変だと言われる役職。文化祭の期間が迫る今は仕事が多いのかもしれない。 「夏輝、傘は?」 「持ってない。天気予報晴れだったし。」 「……寮まで入ってく?」 そう言って一ノ瀬が取り出したのは黒色の折りたたみ傘だった。そこで俺は首を傾げる。 俺が靴を履き替える時には下駄箱近くに気配を感じなかった。恐らく一ノ瀬は先に昇降口の外へと出ていたはず。折りたたみ傘を持っているならばもっと早く帰れば良かったのでは、と小さな疑問が生まれる。
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