ヤクザ教師は隠したい

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別に一ノ瀬の部屋に入るのは初めてではないし、なんなら週に2回くらいは食事の世話をしに来ていたりする。しかしなんだろう、この緊張感は。変にソワソワしてしまう。 「入って」 気づけば部屋の前まで来ていて、扉を開けて待っている一ノ瀬を目の前になぜか少し躊躇ってしまう。 「いや、やっぱり…服とかも濡れてるし……」 「別に良いから。早くしないと風邪ひくよ」 「う……うん…」 言われるがまま部屋に入るとやっぱり床は濡れてしまうわけで、申し訳なく思いながら一ノ瀬に視線を向けた。 「お風呂入るでしょ、先に入って」 「えっ、いや…一ノ瀬先入れよ」 「僕は大丈夫。夏輝が入るまで入らない。」 なんて強情な奴なんだ。部屋の主である一ノ瀬を置いて先にお風呂に入ることなんて俺はできない。しかも一ノ瀬は前に水を被って風邪引いた過去があるから余計に放っておけない。 「……じゃあ、一緒に入るか?」 男同士、別に恥ずかしがるものじゃないし……と一ノ瀬の顔をチラッと見ると、鳩が豆鉄砲を食らったような表情で俺を見ていた。 「な、なんだよ…別に男同士なんだから恥ずかしがることないだろ……」 「ふぅん……僕は別に良いけど。夏輝は僕に全部見られても平気なの?」 「そういう言い方やめろ!じゃあお前は目隠しでもしろ!」 「それじゃあ僕、何にもできないけど?」 「俺が全部洗うから!」 「全部…ねぇ?わかった。」 何か含みを持ったような言い方に俺は首を傾げ、後に自分の言った言葉を後悔するのであった。 「脱がせて」 「えっ…」 「何にも見えないんだから仕方ないでしょ?」 脱衣所にやってくると、一ノ瀬は瞳を閉じ腕を此方に向けてそう言ってきた。 「……わかった。」 男同士なのに躊躇っている方が恥ずかしい。そう思って一ノ瀬のシャツのボタンに少し震える手を伸ばした。
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