夏輝くんは選べない

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「奏太……朝早いな」 「朝練だからな。なつは……」 奏太に話を振った筈が俺の話題になってしまい、必死に言い訳を考える。奏太は俺の体を上から下まで見た後、探るような視線を向けてきた。 「天気が良かったからちょっと散歩に…」 「へぇ…鞄持ってこんな時間に?」 「なんか、今日はそんな気分で……」 「ふーん」 慌てて絞り出した言い訳を並べてみるが、咄嗟に出たものほどボロが出やすくて、返って怪しく映ってしまったようだ。親友に嘘を吐くという罪悪感から真っ直ぐに目を見れず視線を逸らしてしまう。 「なつ、寝癖ついてる」 「え?どこ…」 「ここ」 話が逸れてホッとしながら髪に触れると、奏太の手が近づいてきて耳の横の髪をソッと撫でてきた。癖の強い寝癖だったらしくちょっと苦戦していて、その間俺は奏太の整った顔をジッと見つめていた。 「うん、これでオッケー」 「ありがと。」 「なつ、シャンプーかなんか変えた?」 「変えてないけど…」 「そう」 すると奏太は何を思ったのか鞄を開け、お洒落な小瓶を取り出した。それが香水だとわかった俺は奏太の意図がわからなくて首を傾げる。 「これ、俺のお気に入り。」 「すご…いつもつけてるやつ?」 「部活で汗かくしいつもじゃないけど、良い匂いだからなつにも試してほしくて。この匂い苦手じゃない?」 奏太は自分の手首に香水を1プッシュすると、俺の鼻に近づけてきた。柑橘系がベースでフルーティーな匂いで、ジャスミンとかローズ系のほのかな甘い香りもする凄く良い匂いだった。 「めちゃくちゃ良い匂い!奏太の匂いって感じがする。」 「今は柑橘系っぽいんだけど、時間経つとムスク系の香りに変わるんだ。良かったらつけて」 「いいのか?そんな高そうなやつ」 「いーの。俺がなつにつけて欲しいから。」 奏太はそう言うと自分の手首にまた1プッシュ香水をつけ、俺のうなじと手首にトントンと匂いをのせた。
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