夏輝くんは選べない

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「うわぁ、なんか大人になった気分」 「ハハッ、大袈裟。」 ブランド物の香水なのか俺にはわからないけど、香水をつける事自体が初めてだから大人の階段を登ったような気持ちだ。 「そういえば部活の時間大丈夫か?」 「あっ!やべ……なつと居ると楽しくて時間忘れるんだよな。」 「………」 「ほら。すぐそういう可愛い顔するから部活行きたくなくなるんだよ」 「どこがだよ!奏太が恥ずかしいこと言うから変な顔になるんだよ。早く部活行け!」 ニヤけて気持ち悪い顔を見られてしまって恥ずかったのに、さらに追い討ちをかけるように″可愛い顔″なんて言ってくるから、俺は奏太の背中をグッと押して部活へ向かわせる。 人タラシな奏太はサラッとそういうことを言って俺を嬉しくさせてくる。それは誰にでも言っているのか、それとも俺を好きだから言っているのか、コミュ力おばけの奏太のことはよくわからない。 「あ!そう言えば、今日話したいことあるから俺の部屋来て。約束な!じゃ!」 「ちょっ…え、えぇー……」 返事をする間も無く奏太は颯爽と駆けて行ってしまって、何の話か聞けなかった。奏太の部屋ということはきっと2人きりで話がしたいんだろうけど、人の部屋に行くのは俺の経験上、危険だ。一ノ瀬の部屋を始め、槙田の部屋でも、結弦くんの部屋でも、奏太の部屋でもそうだ。 2人きりだと何か起こってしまうこの学園……そういえば千鶴先輩の時はそんなことはなかったかもしれない。俺の周りでは意外と1番誠実だったりするのかな。 「とりあえず帰るか。」 奏太が出てきた部屋の隣の部屋のドアを開けると、部屋の中は真っ暗で静かだった。まだ凪が起きてないことにホッとしていると、凪の部屋のドアがキィ…と音を立てて少しだけ開いた。 「た、だいま…」 昨日は矢野に用事があるってことしか伝えてなかったからきっと帰ってこなくて心配してくれたのだろう。ドアの隙間から凪がジッとこちらを覗いている。
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