夏輝くんは選べない

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「おかえり」 「た、ただいま……」 俺が凪の頬から手を離して頭をポリポリかくと、腰を引き寄せられポフっと凪が俺の体に収まってきた。 「俺欲しいものできた」 「…なにそれ」 「他の奴に取られるくらいなら、俺がもらう」 俺のことを見上げながらそう言った凪は不敵に微笑んでいて、不覚にも心臓をキュッと掴まれてしまった。友達の台詞も顔もイケメンすぎて辛い。 「そんなに人気のあるものなのか?」 「めちゃくちゃ人気。鬱陶しいくらいに」 「鬱陶しいって……」 眉間に皺を寄せて口を尖らす凪を見てクスクス笑うと、凪が俺を抱きしめる腕の力が強くなった。 「絶対誰にもあげない」 「凪って意外と欲張りだな」 「これだけは譲れない」 「手に入るといいな。」 ポンポンと頭を撫でてやると顔を擦り付けてきて、可愛いワンコに懐かれたものだとほっこりする。 「お腹すいた」 「今作るから顔洗って」 そうして俺は朝ご飯作りに取りかかろうとしたのだが、凪は一向に離れてくれる気配がない。俺がキッチンに向かうと俺の背中に抱きついてついてくるし、クールキャラどこ行った? 「凪?」 「なに」 振り向いて凪の顔を見るが退いてくれる気配はなく、俺は渋々そのまま朝ご飯の支度を始めた。 ◇ ◇ ◇ 「ぐっ……ふ、朝からご馳走様です!!」 教室に着き、少し授業の予習でもしようかと教科書を開けると、背中に体重が乗り掛かってきた。その様子を目撃した倫太郎は天に向かって手を合わせている。 「おはよ、倫太郎。凪が朝からこんな調子で困ってるんだよ」 「夏輝、ここ間違ってる」 「え、どこ……」 「はわゎ……結局流されちゃってる夏輝くんかわい…!!星乃くんは急にどうしちゃったの?いいぞもっとヤレ!」 俺の肩に顎を乗せて抱きついてくる凪が俺のノートを指差してきて、俺は視線を移す。凪は途中から編入しただけあって頭が良いから、勉強に関してはとても頼りにしている。
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