夏輝くんは選べない

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クラスメイト達とこんな風に和気藹々と過ごせるなんて以前だったら夢のような光景なのだが、今はみんなが敵にしか見えない。シェフのデザートに目が眩んでしまった俺も大概だが、高校生の悪ノリが過ぎる。 「そうだ、後夜祭の相手決めておけよ。」 承諾してしまったことを後悔する俺の周りでどんな衣装にするか花澤くんが語っている時、矢野がそう言い放った。後夜祭と聞くとクラスは違う意味で色めき立って、「相手は誰にする?」と話題が変わっていった。 後夜祭、それは文化祭後に行われる打ち上げのようなものだ。文化祭のイベントとは別に生徒会が主催しているもので、ダンスパーティーとなっている。 何人と踊っても構わないのだが、メインのダンスではその日のパートナーと参加しなければいけない。文化祭当日まで本人に申し込むことができ、申し込まれた側はその中からパートナーを決めるのだ。 「男とダンス……」 文化祭前になると授業にダンスが組み込まれるようになり、学園全体がこの話題で持ちきりになる。強制参加ではないし、普通に立食パーティーだと思えばいいのだが、申し込まれたら大体の人はダンスに参加している。そこで愛が芽生えることもあったりするイベントなのだ。 朝のホームルームが終わり、次の授業の準備もせず机に項垂れていると、廊下の方が何やら騒がしい。顔を上げて廊下の方に目をやると、凄い勢いで教室のドアが開いた。 「きゃぁあ!」 「えっ?どうして副会長様がここに…」 「眼福や」 このクラスだけでなくこの階の生徒たちを騒つかせたのは、なんと千鶴先輩だった。廊下を歩くだけで歓声が上がるとは、生徒会はアイドルか何かなのだろうか。 千鶴先輩はクラス中をキョロキョロ見渡し、俺を見つけると顔をキリッとさせ、緊張した面持ちで口を開いた。 「高嶋くん!」 「はっ、はいぃ?」 千鶴先輩が俺の名前を呼んだことで一斉に注目が集まり、廊下にいるガヤまでもが副会長の次の言葉を待つように息を呑んで見守っていた。
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