夏輝くんは選べない

11/30
前へ
/565ページ
次へ
「俺のパートナーになってください!」 千鶴先輩が手を差し出して頭を下げる姿はまるで一世一代のプロポーズのようで、クラスから黄色い歓声が上がった。俺は恥ずかしくて一瞬にして体が火を吹くように熱くなり、りんごのように顔が真っ赤になる。 助けを求めようとしても凪はこんな騒ぎの中熟睡しているし、一ノ瀬は嫌悪感丸出しで静かに怒っているみたいだ。倫太郎は鼻血を噴射し倒れそうになったが、なんとか耐えてスマホのカメラを向けてくる。理由は言わずもがなだろう。 「千鶴先輩っ……みんな見てますから…」 「あっ……ご、ごめん。」 顔を上げた千鶴先輩は事の大きさにやっと気づいたようで、柄にもなく焦り始めた。こんなに人がいる中で(恐らくダンスパーティーの)パートナーを真剣に申し込んでくるなんて、俺のことを好きだとみんなに言っているようなものなのに恥ずかしくないのだろうか。 「千鶴先輩ちょっと来てください。」 「えっ、ぁ…手……」 俺は千鶴先輩の手を掴んで、人混みの中をくぐり抜けていく。周りのギャラリーは興奮し「2人ってそういう関係?」「副会長様って高嶋くんのこと好きなんだ…!」「ガチ恋やん」と期待に目を輝かせている。 (……見せ物じゃないのに。) 俺は複雑な気持ちを抱えたまま、千鶴先輩と2人きりになれそうな場所へと向かった。千鶴先輩は大人しく手を引かれ俺についてきてくれて、その間俺たちは会話を交わすことはなかった。 「ここら辺で良いです、か…ね……」 「………」 屋上へと続く階段を登り、ドアの手前に着いてから振り返ると真っ赤な顔を伏せる千鶴先輩の姿があった。 「千鶴先輩…?」 千鶴先輩は俺と目を合わせられずキョロキョロと視線を彷徨わせ、繋がれている手に視線を落とした。 「あっ、ごめんなさい。」 俺が謝って手をパッと話すと、千鶴先輩は小さく首を横に振った。千鶴先輩の反応は初心ですごく素直で、こっちまでドキドキが伝わってくる。 ずっと大人しかったのは手を繋いでいたからなのだろうか。
/565ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5517人が本棚に入れています
本棚に追加