夏輝くんは選べない

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千鶴先輩は普段飄々としていて、掴めない人なのに俺の前だと感情が表に出てしまう。俺は前髪をかきあげ、「調子狂うな…」と心の中で呟きながら小さく息を吐いた。 「ごめん、気持ちが先走ってた。ホームルームで担任がダンスのパートナーの話をしてから頭の中その事でいっぱいで、絶対高嶋くんが良いって思って………」 千鶴先輩は自分の手をギュッと握り、俺の顔を窺うように話し始めた。 「俺、人のこと好きになるの初めてだから、全然抑え効かなくって。迷惑かけちゃって本当にごめんね。」 「迷惑っていうか、正直恥ずかしすぎて死ぬところでした。千鶴先輩はもっと自分が人気者だってことを自覚した方が良いです。」 「はい……」 千鶴先輩の真っ直ぐなところは嫌いじゃないし、むしろ好感が持てる。だからって毎回あんな風に暴走されるのは俺の身が持たない。 「千鶴先輩はさっきみたいに見せ物みたいになっても良いんですか?俺のことが好きって騒がれて、嫌じゃないんですか?」 「全っ然嫌じゃないよ。だって俺が高嶋くんのこと好きって知ってくれたらライバル減るかもだし、応援してくれる人も増えるしね。」 俺も別に千鶴先輩からの好意が嫌ってわけじゃなくて、噂っていうものはすぐ尾ひれがついて本人にとって良くないものに変化してしまったりもする。いくら男同士で付き合っている人が多い学園とはいえ、そういうことに偏見がある人もいるのだから、時と場所は選ばなければいけない。 「そうですか。……でも、さっきみたいにみんなの前でするのは、俺苦手なのでやめて下さい。」 「はい。気をつけます。」 千鶴先輩はショボンと肩を下げて反省した様子だった。俺の一言で嬉しそうな表情にもなるし、こんな風に落ち込んだりもする。それがなんかむず痒くて、ふわふわした変な感覚だった。
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