夏輝くんは選べない

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階段を先に降りた俺はくるりと振り返って、まだ階段の途中にいる千鶴先輩をパッと見上げる。 「千鶴先輩って本当に変な人です。さっきみたいに俺の前で空回ってる時もあれば、そうやって大人っぽいところもある…」 「好きな人の前では格好良くいたいのに上手くいかないだけだよ。」 千鶴先輩は階段を一段残して、俺に手を伸ばしてくる。いつもより背の高い千鶴先輩を見上げていると、俺の頭の上に手をポンと置いて優しく髪を撫でた。 「これからはもっと格好つけさせてほしいな」 「……勝手にしてください。」 好きな人の前で格好つけたいのはわかるけど、そのままでも充分に格好良いと思ってしまったのは無駄に喜びそうだから秘密にしておく。前までの千鶴先輩より、飾らないありのままの姿の方がより一層素敵だ。 「あー、今すっごく抱きしめたい」 「ダメです。」 「わかってる。わかってるんだけど……先っぽだけでもダメだよね?」 「……どういうことですか?なんかキモイから却下です。」 千鶴先輩は自分の顔面を両手で押さえながらそんなことを言うが、俺の体を引き寄せるなんて強引なことはしない。凪にキスをしたと聞いた時はなんて常識がない人なんだと思ったけど、こんなに一途に想われたら悪い気はしないというのが本音だ。 「千鶴先輩って意外と良い人ですよね」 「ハハ…どうかな。高嶋くんの前だけだったりして。でも良い人止まりは嫌だな」 眉を下げて力なく笑う千鶴先輩は自信なさげだった。 (この人の想いに応えたら、きっと俺のことを幸せにしてくれるんだろうな……─) 「…………えっ!?」 「なに?どうしたの?」 「い、いえ…なんでも………」 今一瞬、千鶴先輩と付き合ったことを想像していて、そんな自分に驚いてしまった。 男の人と付き合うなんて自分の中であり得ないと思っていたから、これまでそんなこと考えなかったのに……こんなのおかしい。
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