夏輝くんは選べない

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「高嶋くん?」 「わっ!?」 俺の顔をズイッと覗き込んでくる千鶴先輩が近くて、俺は思わず声を上げた。間近でみる千鶴先輩は髪サラサラしてるし、まつ毛長いし、お肌も綺麗で、すごくキラキラしているように見えた。 その美貌とふいに見せる優しさと魅力にいつか絆されてしまうような気がして怖い。 「なんか顔赤いよ?」 「見ないでください」 俺は千鶴先輩の目に手のひらを押しつけて視線から逃れる。俺の手が触れた途端にピタッと動きを止めた千鶴先輩を見て、ふっ、と笑みが溢れた。 俺にもし彼女とか好きな人ができたら、千鶴先輩とは疎遠になってしまうのだろうか。それはなんだか寂しくて。千鶴先輩もいつの間にか俺の中で大きな存在になっている事を実感する。 そんな未来がくるのなら今という時間がずっと続けば良いのに、と願うのは最低だろうか。 「千鶴先輩は……」 ″格好いいです。″ 唇を動かして紡ぐその言葉は声にならず、千鶴先輩の耳には届く事はない。こんな風に思っていることは知ってほしくないけど、なぜか伝えたくて。 「高嶋くん…何か言った?」 そっと手を離すと、丸い目でキョトンと見つめてくる千鶴先輩。今更ながら恥ずかしい事をしてしまったと口を噤んだ。 「高嶋くん?」 「秘密です。」 「ええっ!教えてよ〜」 ─ キーンコーンカーンコーン 会話の途中でチャイムが鳴り始め、俺と千鶴先輩は顔を見合わせてからバッと走り出す。 「急がないと!」 「次会った時に聞かせてもらうからね!」 学年が違う俺と千鶴先輩は階段で軽く手を振って分かれ、自分の教室へと急いだ。 教師が来る前ギリギリに教室に戻ると、クラスメイト達の視線が突き刺さって居心地が悪かった。きっと千鶴先輩の誘いを受けたのか俺の返事が気になっているのだろう。
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