夏輝くんは選べない

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帰りのホームルームも終わると、体にどっと疲れがきて机に項垂れる。はぁ、と溜息を吐くと体の疲れが幾分かマシになる気がして瞼を下ろした。 『お茶会に参加したっていうのは噂に聞いてたけど、副会長とはどんな関係?』 『高嶋って男もいけるの?』 朝は授業が終わった途端に質問の嵐で大変だった。噂好きのマダムでもあるまいし、そこまでプライベートにズカズカと入って来られると流石の俺も良い気はしない。助け舟が欲しいと思っていたところ倫太郎が悟りを開いた仏様のような顔をしながらやってきた。 『みんな、それは2人のことだからそっとしておこう。事を荒立ててはいけないと僕は思うんだ。こういう事から小さなすれ違いが生まれてしまうからね。そのすれ違いも恋のスパイスとしてはすごくいいよ。もどかしいのも嫌いじゃないけど、ハッピーエンド厨としてはやっぱり幸せになってほしいから、あるべき時に備えとくべきなんだよ。』 今思えば助け舟というより布教活動のような感じで、倫太郎の言葉に胸を打たれた数名は倫太郎の信者となった。倫太郎のような生温い視線を送る生徒が増えたのはきっと気のせいではないだろう。 「うっ…」 急に背中が重くなって小さく声を漏らすと、「変な声」と耳元で呟かれ、重みを押し返すように起き上がる。すると俺に体重を預けていた凪は渋々といった表情で退いてくれた。 「あ、センパイいた」 「槙田……」 「何その辛気臭い顔。」 鞄を持ってゆるりと立ち上がったところで槙田が2年の教室に我が物顔で入ってくる。俺の顔を見るなり可愛らしい顔を歪め、自分の鞄をゴソゴソと漁り始めた。 「はい、これ好きでしょ?」 僕食べないからあげる、と言って胸に押し付けられたのは俺が好きないちご味のチョコレートだった。 「なんでこれ……」 「コンビニでオススメされただけ。別にセンパイにあげようとか思って買ったわけじゃないから」 「ありがとう…?オススメしてくれた店員さんってもしかしてパンダさん?」 パンダさんとは俺がお世話になっているコンビニの店員さん黒沢 眞白さんのことだ。名前に黒と白がついているからパンダさん。俺がつけたあだ名だ。 (スター特典 偽不良くんの素の時間にて登場しております。)
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