夏輝くんは選べない

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「誰それ…パンダが働いてるの?」 「パンダさんはコンビニの店員で……んーそれ以外よくわかんないな」 教室の時計を無意識に見上げながらパンダさんの顔を思い浮かべていると、よく考えたらコンビニお菓子のことくらいしか話してないから、何にも知らない。 身長190以上はあるであろうモデル並みのスタイルの持ち主のパンダさんは片目は長い前髪で隠れていて、耳には痛そうなピアスがたくさんついている。髪は銀色だし見た目は怖いが接客は割と丁寧だし、話せば良い人だとわかる。若くも見えるけど、社会人と言われても不思議じゃない年齢不詳の店員さんだ。 「久しぶりに会いに行こうかな…」 いちごチョコが入った箱を見下ろしながら、お菓子がたくさん買えることを想像して顔が緩んだ。 「ふーん、仲良いんだ?」 「パンダ処す」 「なんでだよ」 凪の口から物騒な言葉が飛び出してきて、ツッコミを入れるように頭に軽くチョップした。 「あっ、高嶋くん!宗方いる?」 名前を呼ばれて教室の入り口を見ると、保健委員会の委員長である三好先輩がヒラヒラと手を振っていた。俺は頭を軽く下げて倫太郎の席へ視線を移した。 いつもならホームルームが終わると俺の席に真っ先にやって来るのだが、今は呪文のような言葉をブツブツ唱えながら血走った表情でノートに何かを書いている。表情から察するに勉強ではなさそうだ。 「倫太郎、三好先輩呼んでる」 「チャラ男が…恋を知って……えっ?ぁ…三好、先輩……」 名前を呼んでもピクリとも反応を示さない宗方の肩にポンと手を乗せるとやっと顔を上げてくれた。ドアの方を指差すとつられるように首を動かし、三好先輩を視界に入れると倫太郎の瞳に少しだけ潤いが戻ったような気がした。 「あの2人ってデキてるの?」 「さぁ…」 槙田は俺の服の袖をくいっと引っ張りながら、あまり興味なさそうな表情で聞いてきた。三好先輩の気持ちには察しているものの、どこまで進展したか聞いていない俺は首を傾げて言葉を濁した。 帰り支度を済ませ三好先輩に駆け寄る宗方の後ろ姿を見守りながら、「三好先輩頑張れ…」と心の内で呟いた。
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