夏輝くんは選べない

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「他にもナツキに秘密にしてることありそうだね」 凪はその言葉を聞いて気まずそうに目を逸らし押し黙った。それを見たパンダさんは弓なりに目を細めて笑っていて、いつもなら嬉しく思うのに、今だけはそう思うことができなかった。 人の秘密を言いふらしてその反応を楽しむところも、当たり前だけど俺より凪を知っていることも、何もかも気に食わなくて。 「すみません、。用事を思い出したので、俺たちはこれで失礼します。」 「ナツキ…?」 俺は目を見開く理事長に頭を下げて、「行こう」と凪の手をギュッと握った。無関係な槙田には申し訳ないが、今は周りのこととか今後コンビニに行きづらくなることとか、考えられない。 それは世間で言う八つ当たりであり──ヤキモチだ。 でもそれだけじゃない。さっきの凪は自分を偽ってた時の俺と重なり、胸がキュッと苦しくなって、見て見ぬフリはできなかった。 「ちょっと、センパイ!大丈夫なの?」 「わかんない。でもこれで良い。」 「そっか……」 槙田は早歩きをする俺の隣に駆け足でついてきて、柄にもなく心配してくれる。 「……夏輝、」 「大丈夫。早く帰ろう。」 引き留めるように凪が俺の手を強く引いたが、俺はその手を更に握り返して寮へ向かった。 ◇ ◇ ◇ リビングのソファで2人きり。どちらから話すわけでもなく沈黙が続き、時計の針の音だけが部屋に響いている。 あの後、槙田は空気を読んで先に帰ってくれた。槙田は本当に気を遣わせてしまって悪かったと思っている。次会った時にメロンパン奢ってあげようと心に決めた。 「凪」 俺が名前を呼ぶとゆっくり顔を上げ、目線を合わせてくる。凪の瞳はゆらりと揺れていて、まるで捨てられた子犬のようだった。
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