夏輝くんは選べない

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「なんでそんな不安そうな顔してるんだよ」 眉を下げて柔らかく微笑むと、凪は何も言わずまた俯いてしまった。 パンダさんと従兄弟で本当の理事長の甥ということも、喧嘩が本当は強いということも凪にとっては隠したかったことなのだろう。まだ秘密にしていることがある後ろめたさから打ち明けようとしているが、いま話してもきっと辛いだけだ。 「言わなくて良いよ」 自分の膝を見る凪を優しい目で見下ろしながら、背中に手をソッと置いた。 「前に凪が言ってくれただろ?『夏輝の過去を知っても、偽不良を演じてても関係が崩れることはない。話し方、態度が違っても今までの言葉も行動も夏輝自身のものだろ。』って。」 あの時の言葉に俺は救われて、今ありのままの自分でいられる。俺だって凪が困っているなら助けたいし、言いたくないならそのままで良いと思う。誰だって言いたくないことの一つや二つあってもおかしくないし、友達だからとか家族だからって言わなきゃいけない訳じゃない。 自分の時はそう思うことができなかったのに、人間って本当に不思議な生き物だ。 「こんな俺を受け入れてくれて、すごく嬉しかった。だからどんな凪でも、秘密にしたいことがあっても、まるごと全部受け入れたい。」 「………夏輝」 再び顔を上げた凪は覚悟を決めたような表情で俺を見つめた。少し緊迫した空気にゴクリと喉を鳴らすと、凪はゆっくりと唇を開いた。 「実は俺、族の総長やってるんだ」 「そっか…………総長か…そうちょう………総長!?」 うんうん、と穏やかな気持ちで頷いたが、しばらくして俺の脳がその言葉を理解し、驚きが遅れてやってくる。 俺の族のイメージを言うと喧嘩が強くて、柄がものすごーく悪くて、鉄パイプとか持ってたり、煙草を吸ってたり……って感じだ。そこまでならまだ若気の至りというか…納得はできるんだけど、その族のトップということはかなりの強者。 まさかこんなマイペースの甘えん坊が総長だなんて誰が思うだろうか。
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