夏輝くんは選べない

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「なら、もっとしたい」 「ばっ……だめ……」 「なんで?」 凪は顔の角度を変えながらまた唇を近づけてきて、俺は直前でハッとしてその口を抑えた。するとビー玉みたいに透き通った目が俺を見上げて、「嫌じゃないのに何でダメなの?」と訴えてかけてきて、俺は眉を下げる。 「なんでって……恥ずかしいから」 「ふぅん」 凪は納得いかないような顔で離れると、ソファに背中を預けて俺を見上げた。 凪は親友だけどマイペースで甘えん坊なところがペットみたいで、さっきのキスも嫌悪感はまるでないのだ。だけど、モラル的にも俺の心臓的にもこれが限界だ。 「あのさ、」 「ん?」 「さっき男に対して恋愛がどーのって言ってたけど、俺も男が好きって訳じゃない」 凪が男が好きだったならとっくに良い男を捕まえている筈だ。凪は格好良くて親衛隊もいるし…と、考えながら凪が誰かと付き合う想像をして、胸がモヤっとする。 「好きになったのがたまたま男だったってだけ」 何でそんなに真っ直ぐに考えられるんだろう、と不思議に思って、嘘のない言葉と曇りのない心が羨ましくなった。 恋愛は自由なんて言われているけど、男同士の恋愛は快く思う人もいれば世間では否定されることの方が多い。だから好きとか付き合うとか考える前にそれがどうしてもチラついてしまうのだ。 「夏輝が好き」 好きになったタイミングは?とか俺のどこが好きなんだ?とか、本当は聞きたいことが山ほどあったけど、そんなことは聞けなくて言葉を飲み込んだ。 「夏輝のペースで考えていい。けど、俺も俺のペースでいく。」 「わかった…」 恋愛なんて興味がないものと思っていたのに、意外と肉食系なんだなと新たな凪の一面を知れた気がした。 「俺のこと選んでくれたら……」 「選んだら?」 「……やっぱり言うのやめとく。」 「えぇ…そこ重要な気がするけど…」 「お楽しみ」 そう言うと凪は自分の唇に人差し指をくっつけて、意味深に笑みを深めた。
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