夏輝くんは選べない

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不思議とその後は気まずくならなくて、好きと言われた実感もあまりなかった。それはきっと凪がいつも通りの態度で接してくれるからなんだろう。これが千鶴先輩だったらきっとこうはならない筈だ。 『後夜祭のパートナー、夏輝がいいんだけど。』 俺が自室に戻ろうとすると、凪が俺の服をクッと引っ張ってそう言った。頭の中に千鶴先輩の顔が浮かんで、「パートナーはもう申し込まれちゃって…」と断った。凪は「そう。」と言って相手の名前も聞かず、ソファでふて寝をし始めた。 「これがモテ期………」 自分の部屋に入ってしゃがみ込みながら呟くと、ドッと疲れが押し寄せてくる。今日は朝から色々ありすぎて、目まぐるしい1日だった。 「男にモテてどうすんだ」 モテている人が羨ましいと思ったことが何度かある。けれどそれは表面上だけで、断る辛さとか関係が壊れるかもしれない怖さに頭を悩ませることになるとは思わなかった。 「また結弦くんに相談しに行こうかなー…」 そしたらまた美味しいお菓子も食べれるし…なんて計画を立てていれば、スマホが振動して慌てて取り出した。画面を見ると奏太から連絡が掛かってきていて、躊躇なく通話ボタンを押す。 「もしもし」 『あ、なつ。さっき部活終わったんだけどいつ部屋これそう?』 もう部活が終わる時間なのか、と時計を見ると18時を過ぎていた。色々ありすぎて奏太に朝言われていたことをすっかり忘れていた。 「21時くらいでもいい?」 『おう。ゲームもやりたいからコントローラー持ってきて』 「わかった。じゃあまた後で」 用事があるって言うから構えてたけど、ゲームをやるって言うならそんなに重く捉えることもないだろう。最近はゲームをやらずに過ごしてきたから、ちょっと楽しみになってきた。
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