夏輝くんは選べない

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夕飯とお風呂を済ませた俺はスウェット姿で奏太の部屋へ向かった。お風呂に入った俺が昨日の夜の出来事を思い出し、赤面したのは誰にも秘密だ。これからお風呂に入るたび思い出してしまうのではないかと思うと憂鬱だ。 ─ ガチャ 「待ってた。……入って」 「うん。お邪魔します。」 黒色のセットアップのルームウェアで出迎えてくれた奏太は柔らかな笑みを浮かべ、招き入れてくれた。やっぱり奏太はパーカーが似合う。 同室の人には申し訳ないが、少しの間だけゲームで盛り上がらせてもらおうとコントローラーを片手に口角が上がる。 「そういえば今日、冬馬いないから」 「えっ!?」 「友達のとこ泊まるんだってさ」 「あぁ……そう、なんだ……」 同室者が入るから部屋に2人きりにならないと勝手に思い込んでいたけど、完全に油断していた。 「冬馬にオススメされたゲームなんだけどさ……」 ゲームの準備が終わった奏太がソファに座る俺の隣に腰掛けてきて、シャンプーの香りがふわりとした。広々としたソファの筈なのに肩も足も密着していて、距離が近いのは何故だろう。 奏太は親友だけど、凪の距離感とか安心感とは少し違って変に意識してしまう。 「は、はやくやろう。」 「ちょっと難しいかもしれないけど平気?」 「ウン、平気。」 「おっけー!じゃ、部屋暗くするよ」 「へ?」 「へ?ってこれホラーゲームだし。」 ピッと奏太がリモコンのスイッチを押したのを見て、目を丸くするとブオォオオンと不気味な効果音が丁度流れてきてテレビにハッと顔を向けた。そこにはホラーゲームで有名なタイトルが映っていて、コントローラーを持つ手にギュッと力が篭った。 (思ってたのと違う………) もっと楽しいゲームだと思っていたから裏切られた感がすごい。気持ちの準備ができていなかったから、その画面を見たまま硬直してしまう。 「ホラー苦手?他のゲームにするか」 「……いや、平気」 俺のおかしな様子を察した奏太は顔を覗き込んできて、俺は薄暗い部屋の中、苦笑いを向けた。 ホラーが得意か苦手かと聞かれたら、苦手な部類にはなるのだろう。けれど折角奏太がゲームに誘ってくれたのだから、一緒にやりたい。
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