偽不良くんは諦めない

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「あ゛?てめェ喧嘩売ってんのか」 地を這うような声で言うが相手は何も動じず、それどころか俺を蔑むような雰囲気がビシビシ伝わってくる。周りはヒヤヒヤした顔でそれを見守っているが、間に入ってこようとはしない。 「……君こそ何様?ここは学校であって君の家じゃないけど。」 「チッ、だりぃ…」 さらさらの黒髪に白い肌。少しタレ目で左目の下には涙ボクロがあって色気を醸し出している。細い体で、俺よりは低いであろう身長。俺たちが喧嘩したとしてどちらが勝つのかは明白だった。無駄な争いはしたくない主義である俺はバックを持って立ち上がった。 「へぇ?逃げるんだ?」 言わなくてもいいのにわざわざ俺を煽るような言葉を掛けてきた。普通、不良ならここで喧嘩に発展してしまうのだろうが、俺はそこらへんの不良と一味も二味も違う。 奴の言葉を無視して横をすり抜ける。周りはそれを見てザワザワと騒ぎ立てるが、俺が人をも殺せると言われている形相で睨むと辺りは静まり返った。この学校の生徒は俺を怯えた顔で見るがさっきの奴は度胸がある生徒だったな、と物思いにふけながら体育館を後にした。 体育館へ向かう生徒たちとは反対の方へと歩き、教師や風紀委員に見つからずに寮へ帰ることに成功した。 鍵を取り出して扉を開け、部屋に入る。寮は2人一部屋になっているが、俺は誰かと同じ部屋になったことがない。それは一緒になっても俺に怯えて相手が出ていってしまうからだ。別に何もするつもりもないのに。 一応共有スペースには物をあまり置かないようにはしているが、この部屋に誰かが入ってくることはないのだろう。
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