1.卒業式

1/9
358人が本棚に入れています
本棚に追加
/483ページ

1.卒業式

 木戸鈴香は、半年ぶりに母校を訪れていた。    半年前に来たのは賑やかな文化祭の日だった。元剣道部の仲間と連れだって体育館に入ると、三年一組の演劇が始まった。  題材は、幕末からタイムスリップしてきた新選組の隊士が現代の悪者を木刀でやっつけていく、という勧善懲悪の物語だ。 「絶対コレ琉菜の趣味やけんな」鈴香は隣に座る友人、美樹に耳打ちをした。  「せやな。琉菜新選組オタクやもん。にしてもようこんな琉菜好みの脚本あったなぁ」  舞台では浅葱色の羽織を着た女生徒が華麗な立ち回りで敵を倒す場面が繰り広げられている。  さすが、本場で鍛えただけのことあるわ、と口には出さずに鈴香は舞台に見入った。    終演後、舞台で大立ち回りを演じた親友が彼女にだけ放った言葉は「や~、怪我させないように加減するの大変だったよ。相手は”素人”だからさ」である。  そんなことを思い出しながら鈴香は校門をくぐった。門の脇には「卒業式」と書いた看板が立てかけてある。体育館の方は静かになっていたから、式典自体は終わったのだろう。鈴香は花束を大事そうに抱えながら、懐かしい教室に向かった。     
/483ページ

最初のコメントを投稿しよう!