23.油小路にて

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「荒れる?うーん、いいお天気ですよ。月も見えてるし」琉菜は沖田に背を向け、障子の隙間から顔を出して空を見上げた。 「そういう意味じゃないですよ」 「どういう意味ですか」琉菜は自分の思い過ごしで済むことを祈った。 「斎藤さんが帰ってきた。それに、さっき厠に立った時、近藤先生と土方さんたちが島原方面に出て行くのを見ました。供もつけずに。あの二人だけで外へ酒を飲みに行くなんて珍しい」 「まあ、たまにはそんな日もあるんじゃないですか?」 「極めつけは、土方さんの顔です。同じだったんですよ。芹沢さんを斬った日と。これから仲間を斬りに行く時の顔。もう四年も前のことだけど、あの日のことはよく覚えています。琉菜さんはまだいませんでしたが、未来の人ですし、知ってますかね?」  琉菜は答えるべきか迷った。この時点ではまだ、芹沢鴨の暗殺犯は長州の人間ということになっている。が、沖田が今ネタばらしをしてしまったのだから大丈夫だろうと判断した。 「はい。あとになって、八木さんの息子さんの目撃談が語られて……」 「あはは、為坊、やっぱり見てたんだ。あの時は必死でしたからね」  懐かしそうな目をする沖田を見て、琉菜はこのまま話題が逸れて終了することを期待した。しかしそうはいかなかった。
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