24.翻弄

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24.翻弄

 何時間も経った気がした。  しかし、実際には数分しか経っていないのであろう。  血の臭いが鼻をつき、目からはまだまだ涙があふれ、頭の中には藤堂の最期の姿が焼き付いていた。  琉菜は頭の上に暖かい重みを感じた。  沖田が琉菜の頭に手をのせていた。 「沖田さぁん……」琉菜は泣き声のまま言った。沖田は、何も言わなかった。ただ、先ほど見せた生き生きとした表情はもう鳴りを潜めていた。  琉菜は着物の袖で涙をぬぐった。  そして、視界がはっきりした時、沖田が突然手で口をバッと抑えた。  それから大きくて嫌な咳をしたかと思うと、ゴフッと血を吐いた。  暗闇でも、地面が赤く染まるのがわかった。 「沖田さん!」 「総司!!」  近藤らが駆け寄ってきた。  琉菜は沖田の背をさすり、道の端に連れていった。その場にしゃがませ、様子を見守る。  駄目だった。  やっぱり、沖田さんを連れてくるべきじゃなかった?  藤堂さんも救えなかった。  沖田さんの寿命が、もし縮んだら?  再び泣きそうになる琉菜だったが、土方が語気を強めて「琉菜!」と名を呼んだので我に返った。
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