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「総司を連れて早く帰れ!こっちの後始末は任せろ」
「はい!」琉菜ははっきりと返事した。
「土方さん、私なら大丈夫ですよ」沖田は息を切らせながら言った。その顔色は全く大丈夫そうではなかった。
「沖田さん、帰りましょう」
沖田は口のまわりについた血を着物の袖でぬぐうと、「しょうがないなあ」と微笑んだ。
琉菜は沖田を立たせ、土方らに後を託して屯所への道を歩きだした。
「琉菜さん、一人で歩けますよ」
「嘘つかないでください!そんなにふらふらしてるくせに!」
琉菜は沖田の腰のあたりを支えながら、緊張に張り詰めた面持ちで夜道を歩いていた。
「それに……ごめんなさい、沖田さん」琉菜は不意に言った。
「どうしたんです?」
「やっぱり、止めればよかった。沖田さんに無茶させて、結局藤堂さんも……あたしが、藤堂さんを助けてくださいなんて頼まなければ、もしかしたら……」
「また泣くんですか?」沖田は柔かい口調で言った
「あなたももういい大人でしょう。そんなに泣き虫じゃ困りますよ」沖田は青白い顔で微笑んだ。
「まだ泣いてません!」琉菜は意地になって言った。沖田を支える手に力がこもった。
沖田はそんなことは全く気にかけず、少し遠くを見つめた。
「私は、琉菜さんに感謝していますよ。最期に、藤堂さんに会えましたし」
これでも抑えていた涙が、堰を切ったようにあふれ出た。
「なんで、こんな時に、そんなこと言うんですかぁ!」
沖田の看病をしなければいけない立場だというのに、慰められ、元気づけられ。
己の情けなさを呪うとともに、沖田の精神力にただただ舌を巻く琉菜であった。
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