24.翻弄

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 久々に盛大に血を吐いた沖田は、それからあまり部屋を抜け出して巡察に参加するようなことをしなくなった。  もう、そんな余裕は残っていないのだろう。  琉菜は、探し回って連れ戻す手間は省けたが、前よりも土気色になった沖田の顔を見ていると、逃げ回ってくれる方がマシだとさえ思うようになった。  永倉が一番隊と二番隊両方を指揮するようになり、道場で沖田が稽古をつける姿は見られなくなった。  そんな中、ついに幕末という時代が大きく動きだした。  王政復古の大号令が出されたのだ。  これで、政権は完璧に朝廷側にうつり、徳川幕府は名実ともに消滅した。  当然、新選組にも大きな影響が及んだ。 「そうですか、幕府はなくなったんですか」沖田は力つきたように言った。  琉菜はそんな沖田をじっと見つめながら、お粥を置いた。 「食べられそうですか?」 「当たり前です。だいたい、そんなに病人扱いしないでくださいよ。私なら元気ですから」  土気色の顔でそう言う沖田が、琉菜にはいっそう痛々しく思えた。 「総司、入るぞ」近藤の声がした。  沖田が返事をすると、近藤は障子をカラリと開けて入ってきた。 「ああ、琉菜さんも。ご苦労さまです」 「いえ……」  近藤は琉菜の横に座った。 「どうだ、調子は」 「いいですよ」沖田は明るく言った。 「そうか。……総司、時勢は動いた」近藤は少し言いにくそうだった。 「ええ、琉菜さんに聞きました。王政復古の大号令がでたって」沖田はけろりとしていた。 「その通りだ。薩長は武力を持って徳川家をつぶし、一気に新政府を作ろうとしている」
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