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「それで大丈夫なんですかね……」
「もともと大丈夫なわけないんですよ、三日で天然理心流を身につけるなんて。よくもそんな突拍子ないこと……」
琉菜はぶつぶつと言ったが、やがて木刀を持ち直して道場の真ん中に立った。
沖田はその横に座り、琉菜に指示を出した。
「理心流の得意とするところは、構えと突きです」
そう言って、沖田は立ち上がって構えて見せようとしたので、琉菜は慌てて沖田を座らせた。
「あたしがやりますから、沖田さんは口出しだけしてください」
そんなやり方でやったので、稽古は難航した。
しかし、一時間も稽古を続けると、なんとなくそれっぽい形にはなってきた。
「物覚えが速いですねぇ」沖田は感心したように言った。
「そんなことないです。さすがは長く稽古をつけてこられただけありますね。口だけでこんなに教えるのがうまいなんて」琉菜はにっこりと笑った。
「あと三日がんばります。でも、沖田さんは寝ててください。今日教えてもらったことは、いざという時にフェイント……カマかけるのに使わせてもらいます。それで、三日後は、道場に応援しに来てください」
沖田はしばらく心配そうに琉菜を見つめていたが、やがて「わかりました」と立ち上がった。
その時、沖田がふらりとよろけたので、琉菜は慌てて支えた。
ああ、もう何やってんだあたし。やっぱり、稽古なんて断固断ればよかったんだ。
こんな寒い道場に一時間も沖田さんを座らせたら、それだけで体に障る。
わかりきってたはずなのに……
ごめん、沖田さん。
「もしかして、やっぱりやめればよかったとか、思ってますか?」沖田が聞いた。
「そんなこと……」琉菜はたじろいだ。
「いいんです。私が全部勝手にやってることなんですから、琉菜さんは自分を責めないで下さい」
「はい……」
しばらくの沈黙のあと、琉菜は沖田の顔を見上げていった。
「沖田さん、あたし、絶対に勝ちますから」
「はい。がんばってくださいね」
沖田の表情は晴れやかだった。それを見た琉菜は、沖田の教えを無駄にしないよう、自主稽古に励むことを誓うのだった。
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