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「今のは、どちらも一本とするには浅すぎました」
誰に聞かれたわけでもないが、道場内の雰囲気を察した永倉が首を振ってそう言った。
普通、そうなれば勝負がつかなかったことに対するがっかりした声が聞こえてきそうなものだが、
「すっげえ!」
「副長と渡り合ってるどころじゃない……互角に戦ってるよ、琉菜さんは!」
と、盛り上がる観衆なのであった。
しかし、そんな歓声も琉菜にはほとんど聞こえていなかった。
試合開始からすでに四・五分は経過しているだろう。
現代では剣道の試合時間といえば、大体そのくらいだ。
そろそろだな、と琉菜は思った。
「こっからです」琉菜は少し息を切らせながら言った。
「面白え」土方もはあはあと肩を上下させながら言った。
琉菜はすっと刀を前に出した。
そして、少し左下に傾けた。
それだけのことなのに、道場中がざわざわし始めた。
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