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まったく、ほめるか負け惜しむかどっちかにしてよね。
琉菜は小さく笑みを浮かべて立ち上がった。
「あたしも負けません」
「どうかな」
土方は防具置き場へと消えていった。
今までただ黙って琉菜と土方のやり取りを見ていた隊士らが、わっと琉菜にかけよってきた。
「すごいですね琉菜さん!」
「あの鬼副長に勝つなんて!」
「しかも、副長が褒めるなんて俺初めて見たぜ!」
「土方さんにあそこまで言わせるとはなあ」
「ありがとうございます。みなさんが応援してくれたおかげです」琉菜は集まってくる隊士たちに笑いかけた。
「琉菜さん」
試合が始まる前に聞いたのと同じ、柔らかい声が琉菜の名を呼んだ。
「沖田さん」
琉菜は人ごみを掻き分けてきた沖田をじっと見つめた。
「おめでとうございます。ついにやりましたね」
「はい。沖田さんのおかげです。本当に、ありがとうございました」琉菜は深くお辞儀をした。
「私は何も。結局は、琉菜さんの実力じゃないですか」
「いえ、そんなこと……」
「何言ってるんですか。あんな土方さん、本当に珍しいんだから」
琉菜も沖田もにこりと微笑んだ。
隊士たちの歓声を、琉菜は満ち足りた思いで聴いていた。
土方さんに、勝ったんだ。
改めてそう思うと、いまいち実感がわかなかった。
琉菜は自分の手をじっと見つめた。
無数の竹刀だこが、それが夢ではないのだと証明していた。
あたし、土方さんに、勝ったんだ。
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