25.THE LAST MATCH

10/10

359人が本棚に入れています
本棚に追加
/483ページ
 まったく、ほめるか負け惜しむかどっちかにしてよね。  琉菜は小さく笑みを浮かべて立ち上がった。 「あたしも負けません」 「どうかな」  土方は防具置き場へと消えていった。  今までただ黙って琉菜と土方のやり取りを見ていた隊士らが、わっと琉菜にかけよってきた。 「すごいですね琉菜さん!」 「あの鬼副長に勝つなんて!」 「しかも、副長が褒めるなんて俺初めて見たぜ!」 「土方さんにあそこまで言わせるとはなあ」 「ありがとうございます。みなさんが応援してくれたおかげです」琉菜は集まってくる隊士たちに笑いかけた。 「琉菜さん」  試合が始まる前に聞いたのと同じ、柔らかい声が琉菜の名を呼んだ。 「沖田さん」  琉菜は人ごみを掻き分けてきた沖田をじっと見つめた。 「おめでとうございます。ついにやりましたね」 「はい。沖田さんのおかげです。本当に、ありがとうございました」琉菜は深くお辞儀をした。 「私は何も。結局は、琉菜さんの実力じゃないですか」 「いえ、そんなこと……」 「何言ってるんですか。あんな土方さん、本当に珍しいんだから」  琉菜も沖田もにこりと微笑んだ。  隊士たちの歓声を、琉菜は満ち足りた思いで聴いていた。  土方さんに、勝ったんだ。    改めてそう思うと、いまいち実感がわかなかった。  琉菜は自分の手をじっと見つめた。  無数の竹刀だこが、それが夢ではないのだと証明していた。  あたし、土方さんに、勝ったんだ。
/483ページ

最初のコメントを投稿しよう!

359人が本棚に入れています
本棚に追加