26.伏見へ

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 だが、今はもはや脱走者をいちいち追っている場合ではない。  かの「局中法度」も今となっては「士道に背くまじきこと」以外は形骸化していると言っても過言ではなかった。  そんな中、同じ脱退でも潔く正面突破を図った者がいた。「中富新次郎」の盟友、木内である。  彼は、四年間守り続けた京の町を見捨てて伏見での戦に参加するわけにはいかない、と主張した。 「だから、その京都市中まで戦を持ち込まねえために伏見で食い止めるんだろうが」と土方に説得されても、木内は聞かなかったという。 「戦で市中の警護が手薄になっている隙を狙った不逞の輩が出ないとも限りません」と言われれば、本業が「市中見廻り」であった新選組の副長としては止める理由もなく、土方は「わかった」と許可することにしたのである。  他、数名の隊士が木内に同調し、京の市中に残ることになった。事実上、平和的な新選組脱退である。  その木内たちが、伏見に向かう新選組を見送りに来ていた。
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