26.伏見へ

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 そういえば、と琉菜は思った。中富屋はこの道の一本裏にあるのだ。  しかし、もちろん琉菜は手をふりかえすことなどできず、ただ三人に笑いかけた。  多代や兵右衛門、紋太郎、それに小夏にロクな挨拶もできず京を離れてしまう罪悪感に駆られた。  京都の町とも、お別れか。  壬生の屯所、西本願寺、不動堂村に中富屋。  あたしの大好きな場所とも、お別れなんだね。  お多代さんたちにも落ち着いたらちゃんと挨拶に行こう。  これからの新選組は、伏見で、時代の波にもまれてく。しばらくは京の町中に戻ってくることはできないよね。  琉菜はふと、遠く前の方を歩く近藤と土方を見た。  幕臣になって半年。  あの二人は、今、どんな思いでいるんだろう。  伏見奉行所に着くと、休む間もなくそそくさと荷物を運び入れ、いつ薩長の軍が攻めてきてもいいように、全員が武装の用意をした。
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