4.口上の攻防

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「脱走して姿をくらました中富さんが、そういう脱走後の新選組の様子を知ってるはずないと思いません?」  形勢が逆転した、と琉菜は思った。土方の顔にわずかに悔しそうな色が浮かんだ。 「んなもんおめぇ、風の噂で聞いたんだろうよ。山南さんはあれで近所のヤツらにも好かれていたし」 「じゃあ、あたしがどうやって未来に帰ったか言いましょうか?満月の出ている時に神風が吹いたら、あの時の祠から過去と未来を行き来できる。どうですか?これは試衛館出身の皆さんしか知らないことでしょう?」  土方は、反論する言葉を探しているようだった。  琉菜はタカをくくっていた。「同じ時に同じ人間が二人いる」というSF的発想に土方がたどり着けるはずがないと。  平成の世に生きていれば、「タイムスリップ」というファンタジーな事象、それに伴って起きる数々の不思議な現象を映画や漫画を通じ、概念として誰もが知っている。実際にそれができないものかと本気でタイムマシンの研究をしている科学者もいる。  まして実際その身にこうした事柄が降りかかった琉菜にしてみれば、もう何が起きても受け入れられる。  引き替え、幕末を生きる土方は琉菜の件があったからかろうじて「タイムスリップ」を受け入れているに過ぎない。     
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